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ART TRACE PRESS 企画 シンポジウム

抽象の問題群をめぐって

2012年にニューヨーク近代美術館で開催された「抽象を発明すること 1910-1925(Inventing Abstraction 1910-1925)」展は、抽象という問題群の形成をいま一度再検討する試みであったが、当然のことながら、この展示は同美術館の初代館長であるアルフレッド・バーによって1936年に同館で実現された「キュビスムと抽象芸術」展と、このバーによる企画が体現する抽象という理念の形成の歴史的な記述の試みを改めて想起させるとともに、バーの依拠する枠組みの再検討と修正という徴候を示すものであったといえよう。また、日本でも、岡崎乾二郎氏の企画による「抽象の力」展(豊田市美術館)が2017年に開催され、2018年には岡崎氏の同名の著書が刊行されることによって、抽象という理念の形成とその実践的な拡がりが従来とはまったく異なる視点から検討されたことによって、多くの重要な指摘が提示されたことも記憶に新しい。
そこで、Art Trace Pressでは何人かの20世紀美術史の専門家をお招きして、2回のシンポジウムを開催し、改めてこの抽象という問題群の再検討を試みたいと思う。「抽象は何をもたらしうるのか」と題した1回目の討議では、抽象という理念の形成と拡がりを多面的に検討することを目的とするが、この題名に掲げた問いが現在形という時制に置かれている点を改めて強調しておきたい。というのも、ニューヨーク近代美術館での2012年の展覧会が「いかにしてひとつのラディカルな理念が近代芸術を変えたのか」という副題の時制が過去形に置かれることによって、この展示がもっぱら歴史的な再検証の試みであることを標榜しているのに対して、この時制を現在形に開くことによって抽象という問題群において未だ思考されなかった拡がりを来るべき美術の潜勢力として思考することを試みたいと思う。
そして、「抽象への抵抗」と題した2回目の討議は、ひとつのごく単純な事実から出発することになるだろう。例えば前述のバーによる展覧会を支えた理念は、キュビスムから抽象への展開の物語に他ならないが、ところがこのキュビスムの発明に従事したピカソもブラックもいずれも抽象という問題群に対して明瞭な抵抗を生涯にわたって示し続けた点を強調しておきたい。あるいは、アメリカ抽象表現主義の形成に際して、その担い手たちをもっとも触発した画家のひとりであるマティスの場合もまた、この抽象への抵抗という徴候を示している。そこで、この抵抗の提起する問題群を詳細に再検討してみたいと思う。

松浦寿夫



第一回 「抽象は何をもたらしうるのか」

パネリスト
田中正之、松浦寿夫、林道郎、松井勝正



日時:2021年1月30日(土) 15:00〜17:00
参加費:800円


本イベントは、オンライン配信(Zoom)の同時視聴でのみ、ご参加いただけます。
参加をご希望の方は、こちらからチケットをご購入ください。

お問い合わせ、ご質問につきましては info@arttrace.org にて承ります。




パネリストプロフィール

田中 正之(たなか まさゆき)

武蔵野美術大学教授。 1963年、東京都生まれ。東京大学大学院人文科学研究科博士課程中退。1990-95年ニューヨーク大学美術研究所に学ぶ。1996年より国立西洋美術館に勤務し「ピカソ 子供の世界」展(2000年)、「マティス」展(2004年)、「ムンク」展(2007年)などを企画。2007年より武蔵野美術大学に勤務。 主な編著書に『アメリカ美術叢書T 創られる歴史、発見される風景』(共著、ありな書房、2016年)、『西洋美術の歴史8 20世紀美術――越境する現代美術』(共著、中央公論新社、2017年)、『現代アート10講』(武蔵野美術大学出版局、2017年)など。

松浦 寿夫(まつうら ひさお)

1954年生まれ。画家。武蔵野美術大学教授。近代芸術の歴史/理論。

林 道郎(はやし みちお)

1999 年コロンビア大学大学院美術史学科博士号取得。現在上智大学国際教養学部教授。美術史および美術批評。主な著作に『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(全7冊、ART TRACE、2003-9)。『死者とともに生きる』(現代書館、2015年)。「Tracing the Graphic in Postwar Japanese Art」(Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde, New York: The Museum of Modern Art,2012)、共編書に『シュルレアリスム美術を語るために』(鈴木雅雄と共著、水声社、2011 年)、From Postwar to Postmodern: Art in Japan 1945-1989 (New York: The Museum of Modern Art, 2012)など。

松井 勝正(まつい かつまさ)

1971年生まれ。芸術学。武蔵野美術大学、東京造形大学非常勤講師。 ロバート・スミッソンにかかわる仕事として、論文「《エナンチオモルフィック・チェンバーズ》の立体化」『美史研ジャーナル』2(武蔵野美術大学美学美術史研究室、2015)、共著に『西洋近代の都市と芸術7ニューヨーク』(竹林舎、2017)、『現代アート10 講』(武蔵野美術大学出版局、2017)など。著述以外の活動として「宮城でのアース・プロジェクト:Robert Smithson without Robert Smithson」展(風ノ沢ミュージアム、2015年)など。