*
 

松浦寿夫 連続講義(全10回)

第9回 感情のインフラ、あるいは感情というインフラ 6


 前回は主として吉田一穂の詩論と、横光利一の感覚活動に関するテクストの検討を試みたが、今回は、この1930年前後の論争的な文脈で用いられた形式主義という概念の様態の検討から開始したいと思う。そこで、まず最初に中河与一のいくつかのテクストを検討対象として取り上げたい。この右翼イデオローグの刻印とともにしか回顧されることのない作家が、奇妙な察知能力とともに、形式主義の諸問題と同時に偶然性という概念の形成に貢献しえた点は注目すべきである。ほぼ同時期に田辺元もまた量子力学の哲学的次元の考察を試みていたことも付け加えるべきだろうか。そして、内容/形式という対立関係の元に形成された論争状況を別の次元に移動させる理論的作用力を古賀春江および竹中久七の<リアン>グループに見出だすこともできるかもしれない。また、古賀春江のあるテクストのなかで用いられた存在形式/作用形式という対立概念が本来的な場から大きく移動されたとはいえ、当時、すでに邦訳されていたヒルデブラントの著作が駆使する概念であるとすれば、ここ数回のセミナーを下支えする近いもの/遠いものの対立をめぐる思考に接近する回路も開かれるかもしれない。
 そして、今回の問題点を検討するうえで、岡﨑乾二郎のその明晰さと美しさにおいて圧倒的なボブ・ディラン論が多くの示唆を与えてくれるだろう。ともあれ、4月というこの残酷な季節は、困難に耐存したものたちに、新たな、終わることのない開始の合図を贈るはずだ。



講師プロフィール



松浦 寿夫(まつうらひさお)

1954年、東京生まれ。画家、批評家。東京大学大学院人文科学研究科博士課程満期退学。現在、東京外国語大学教授。西欧近代絵画の歴史/理論を研究すると同時に、絵画制作活動を続け、なびす画廊などで個展多数。編著として『シュポール/シュルファス』(水声社 1984年)、共同編著として、『モダニズムのハード・コア:現代美術批評の地平』(太田出版 1995年)、共著として、『モデルニテ3×3』(思潮社 1998年)、共訳として、ティエリー・ド・デューヴ著『芸術の名において〜デュシャン以後のカント/デュシャンによるカント〜』(青土社 2001年)などがある。

日時:2014年4月17日(木) 19:15〜
場所:アートトレイスギャラリー
定員:50名
参加費:700円


参加をご希望の方は info@arttrace.org まで、お名前とご連絡先(お電話番号)、「4月17日松浦寿夫連続講義申し込み」の旨をご連絡ください。
お問い合わせ、ご質問につきましても info@arttrace.org にて承ります。
※定員を超過した場合は締切とさせていただく事もございます。
※当日開始時間にご来場いただけなかった場合、ご予約をされていても立見となる可能性がございます。申し訳ございませんが何卒ご了承ください。






過去のセミナーの情報はこちら