ART TRACE PRESS 05 発売記念座談会
89年について
ごく最近、1980年代の日本の美術を再検証する試みが複数の展覧会として企画され、また『美術手帖』誌による1980年代の特集号も刊行された。それがどのような動機に導かれているにせよ、これらの試みは、1980年代という時代がある歴史的な距離を備えた回顧の対象となり始めたことを暗示しているのかもしれない。
今回、この2019年に89年という日付を題目として掲げる討議を構想することは、当然のことながら、天安門事件とベルリンの壁の崩壊という二つの出来事をもっともセンセーショナルな指標として備える一年という時間の幅のなかで露呈した思考の変動への関心によるものに他ならないが、題目を1989年ではなく、あえて89年に設定した理由は、もう一つの89年を視野に収めることによって、ある種の楕円的な思考の可能性を確保しておきたいという願望によっている。もう一つの89年、それはいうまでもなく、フランス革命と人権宣言によって徴付けられる1789年である。
そして、この二つの89年、二つの〈革命〉を両端とする時代こそが、概略的にいえば、モダンという指標とともに語られる時代である。また、美術史的にいえば、ロココ様式から新古典主義の登場という変動とともに開始する時代であり、また、ディドロによるサロン評という形式での美術批評の開始の時代でもある。
今回、われわれの思考の範囲を大きく超えでる主題を選択したことによって、この討議が表層的な次元に留まるのではないかという危惧を抱いていることを告白しつつ、二つの89年の検討から、1980年代の美術をめぐる議論にもう一つ別の補助線を引く可能性を探究したいと思う。
松浦寿夫
パネリスト
松井勝正、松浦寿夫、林道郎、白井 美穂、豊嶋 康子
日時:2019年6月28日(金) 19:15〜22:00
場所:アートトレイスギャラリー
定員:40名
参加費:
(1) 当日会場にてART TRACE PRESS 05号を購入いただける場合、
書籍代込みで 3,000円
(2) イベント参加のみの場合 1,000円
参加をご希望の方は info@arttrace.orgまで、お名前と「6月28日申し込み」の旨、また当日の発売書籍準備のため、参加費について(1)、(2)のどちらかを記載しご連絡ください。
お問い合わせ、ご質問につきましても info@arttrace.org にて承ります。
※定員を超過した場合は締切とさせていただく事もございます。
※当日開始時間にご来場いただけなかった場合、ご予約をされていても立見となる可能性がございます。申し訳ございませんが何卒ご了承ください。
※お申し込みいただいた方には、今後ART TRACEより展示、イベント等の情報を配信いたします。
(今回の参加のみご希望の方は、お申し込み時「情報配信不要」の旨をメールにご記載願います)
パネリストプロフィール
松井 勝正(まつい かつまさ)
1971年生まれ。芸術学。武蔵野美術大学、東京造形大学非常勤講師。
ロバート・スミッソンにかかわる仕事として、論文「《エナンチオモルフィック・チェンバーズ》の立体化」『美史研ジャーナル』2(武蔵野美術大学美学美術史研究室、2015)、共著に『西洋近代の都市と芸術7ニューヨーク』(竹林舎、2017)、『現代アート10 講』(武蔵野美術大学出版局、2017)など。著述以外の活動として「宮城でのアース・プロジェクト:Robert Smithson without Robert Smithson」展(風ノ沢ミュージアム、2015年)など。 |
林 道郎(はやし みちお)
1999 年コロンビア大学大学院美術史学科博士号取得。現在上智大学国際教養学部教授。美術史および美術批評。主な著作に『絵画は二度死ぬ、あるいは死なない』(全7冊、ART TRACE、2003-9)。『死者とともに生きる』(現代書館、2015年)。「Tracing the Graphic in Postwar Japanese Art」(Tokyo 1955-1970: A New Avant-Garde, New York: The Museum of Modern Art,2012)、共編書に『シュルレアリスム美術を語るために』(鈴木雅雄と共著、水声社、2011 年)、From Postwar to Postmodern: Art in Japan 1945-1989 (New York: The Museum of Modern Art, 2012)など。 |
松浦 寿夫(まつうら ひさお)
1954年生まれ。画家。武蔵野美術大学教授。近代芸術の歴史/理論。 |
白井 美穂(しらい みお)
1962年生まれ。美術作家。主な展覧会に「第7回インド・トリエンナーレ」(ラリット・カラ・アカデミー、1991年)、「アーティスト・ファイル2008」(国立新美術館)、個展「Forever Afternoon」(Northern Gallery for Contemporary Art, UK 2008年)、「瀬戸内国際芸術祭」(宇野港 2013年)、「あいちトリエンナーレ」(愛知県美術館、2013年)、「絵画の現在」(府中市美術館、2018年)など。 |
豊嶋 康子(とよしま やすこ)
1967年生まれ。美術家。東京芸術大学大学院美術研究科修了。1990年より作品発表を始める。日常生活の中の事例を枠組みとして扱い、ひとの思考法の仕組みに構造的に対応させて複数の見え方が表出する作品を手掛けている。近年の主な個展に「資本空間 ─スリー・ディメンショナル・ロジカル・ピクチャーの彼岸 vol.1 豊嶋康子」ギャラリーαM(2015年)、「四角形」Maki Fine Arts(2017年)、「ステンレス鋼」M画廊(2018年)。主なグループ展に「MOTコレクション コレクション・オンゴーイング」東京都現代美術館常設展示室(2016年)、「第9回恵比寿映像祭 マルチプルな未来」東京都写真美術館(2017年)、「百年の編み手たち−流動する日本の近現代美術−」東京都現代美術館(2019年)など。 |
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