連続対談シリーズ「私的占領、絵画の論理」
第一回「絵画の「質」とは何か」 ─ 五月女哲平 ─
2019年のあいちトリエンナーレをきっかけに、私には、日本社会が方向を定めたように見えます。市場の縮小と共に多くの人が、自分の「分け前」や居場所は減るのではないかと不安を持つ中、この国は美術を、ただ提供されるサービスあるいは現実を忘れられるショーとしてだけ必要とするのでは、と。ならば、膨大な死の時代を経て今ここにある、自分や世の中を問い直そうとする現代美術に割り当てられる場所は減るでしょう。
しかし、絵画は、誰かに割り当てられた場を埋める営みではありません。絵筆は点をうち、線を繋げ、面を構築してあらかじめある場所とは異なる世界を作り上げます。絵画という「家」は時間=歴史を孕み、私を形作る、既に亡くなった/これから産まれる人々、価値観や言葉を違える人々に開かれます。私は、絵を描くとは分け前や居場所を待つのではなく、そのような考え方の枠組み(フレーム)自体を作り直す試みだと思っています。
近代絵画は近代資本制の生み出した貧困や困難から生まれました。新たな画家は新たな経済、新たな貧困や困難から生まれ、新たな空間を生み出します。新生する小さな芸術の占領地帯をどのように繋げ、崩壊してゆく既存の公共の瓦礫を積みなおし、未踏の広場として織り上げるのか。
7人の画家達との、1対1の対話を通して、私は準備を始めようと思っています。
一人目の対談者として、五月女哲平氏をお迎えします。五月女氏の絵画には独自の質が感じられますが、しかしこの「質」という言葉は定義の複雑なものです。近年は建築やミュージシャンとのコラボレーションも行う五月女氏と、この「質」をきっかけに対話を試みます。
五月女 哲平(そうとめ てっぺい)
![]() 1980年栃木県生まれ。2005年東京造形大学卒業。絵画を中心に、近年は立体や写真、映像などを織り交ぜた作品も発表している。近年の主な展示に、『Olaph the Oxman』カッパーフィールド・ギャラリー / ロンドン 2019、『絵と、 』αM(蔵屋美香企画)/ 東京 2018、『裏声で歌へ』(遠藤水城企画)小山市車屋美術館 / 栃木 2017 など。 |
永瀬 恭一(ながせ きょういち)
1969年生まれ。画家。東京造形大学卒。2008年から「組立」開始。 主な個展「少し暗い、木々の下」(2019年、殻々工房)、主なグループ展「エピクロスの空地」(2017年、東京都美術館セレクショングループ展)他。主な共著『成田克彦―「もの派」の残り火と絵画への希求』(2017年、東京造形大学現代造形創造センター)、『20世紀末・日本の美術―それぞれの作家の視点から』(2015年、ARTDIVER)等。 |