連続対談シリーズ「私的占領、絵画の論理」
第四回「環境と意識と絵画」 ─ 戸塚伸也 ─
小学校からの教育が子供の旧来的産業へのはめこみ=就職手法として、いまだに工場的画一化に留まっている反動は、不登校や支援学級の増加などで表面化しています。柄谷行人はこれらを一種のボイコット・ストライキとして積極的に見ましたが、同じ構造は美術にも見えるのではないでしょうか。作品生産が新自由主義的「アート産業」登録へ目的化され、その訓練課程として美術学校や美術館が組み込まれている状況から脱出を図る運動は、それ自体がジャーナリズムを彩る「就職手法」となる危険を孕みながらも散見されます。
世界と自己認識の距離を計測し、その観測結果から世界と自己を同時に/代謝的に組成しなおすこと、言い換えれば世界と自己を教育・育児し直すことは、往々にして現状のシステムからはみ出した場所でこそ可能です。児童問題におけるフリースクールや保健室に次世代の契機が芽生えるように、新しき「自由画教育運動」の兆候を今一度発想しなおすことを「私的占領、絵画の論理」では意識しています。
四回目のゲストとして戸塚伸也氏をお迎えします。環境と意識のズレから遡行的に「私」は形成され、かつ、そのズレは様々な幻想・制度・習慣によって埋められます。しかし、戸塚氏の絵画ではズレ自体が主題化し、症候的イメージを形成するように見えます。絶えざる外界との調停としての「描き」がどのような空間を形成するか、検討する場を持ちたいと思います。
戸塚伸也(とつか しんや)
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1983年神奈川県生まれ。2005年武蔵野美術大学卒業。ドローイングを起点として制作した、油彩、ミクストメディアを中心とした平面作品を発表している。 |
永瀬 恭一(ながせ きょういち)
1969年生まれ。画家。東京造形大学卒。2008年から「組立」開始。 主な個展「少し暗い、木々の下」(2019年、殻々工房)、主なグループ展「エピクロスの空地」(2017年、東京都美術館セレクショングループ展)他。主な共著『成田克彦―「もの派」の残り火と絵画への希求』(2017年、東京造形大学現代造形創造センター)、『20世紀末・日本の美術―それぞれの作家の視点から』(2015年、ARTDIVER)等。 |